国が認めたデジタル円『JPYC』とは?税理士が経理視点で解説
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これまで1,000件以上の創業相談を受けてきた税理士の視点から、多くの中小企業経営者が直面する課題を見てきました。特に、「ネットショップの返品対応で、振込手数料が利益を削っている」「日々の入金消込に時間がかかりすぎる」といった声は後を絶ちません。こうした地味ながらも深刻な悩みを解決する可能性を秘めているのが、国が認めたデジタル円「JPYC」です。この記事では、専門用語が苦手な方でも理解できるよう、以下の3つの問いに順番にお答えしていきます。
- JPYCの安全な仕組みとは何か?
- 中小企業にとっての具体的なメリットは何か?
- 経理実務での活用例と、導入前の注意点は何か?
目次
JPYC(ジェーピーワイシー)とは?:仮想通貨とは違う「安心なデジタル円」
JPYCは、近年注目される「ステーブルコイン(Stablecoin)」の一種です。しかし、「コイン」と聞くと、値動きの激しいビットコインのような仮想通貨を想像して不安になるかもしれません。結論から言うと、JPYCは投機目的の仮想通貨とは全く異なる、安全性を重視した仕組みで設計されています。その理由は、大きく分けて3つあります。
第一に、常に「1円=1コイン」の価値で固定されている点です。これは、発行されたJPYCと同額の日本円が、銀行預金や国債といった形で裏付け資産として確保されているためです。第二に、その安全性は法律によって裏付けられている点です。金融庁の監督のもと、2023年6月に施行された改正資金決済法により、JPYCのようなステーブルコインは「電子決済手段」として法的に明確に定義されました。そして第三に、発行できるのが金融庁に登録された業者に限られている点です。これにより、誰でも発行できる一部の仮想通貨とは一線を画し、信頼性が担保されています。
この章では、JPYCが国の法律に基づいた安全な仕組みであることを理解しました。では、このデジタル円が具体的に中小企業の経営にどう役立つのでしょうか。次章で3つのメリットを掘り下げます。
中小企業にとっての3つのメリット
JPYCが安全な仕組みであることは分かりました。次に、中小企業の経営者にとって最も重要な「で、結局うちの会社にどんな得があるの?」という問いにお答えします。メリットは、「コスト」「効率」「スピード」の3つの側面に集約されます。
- コスト削減:
大きなメリットは、決済手数料の削減です。一件あたり数百円かかることもある銀行振込手数料は、取引が増えるほど重い負担となります。対して、JPYCの送金にかかる手数料は、極めて低く抑えられるように設計されており、特に少額の返金や支払いが頻繁に発生するビジネスでは、その差は無視できません。 - 経理の効率化:
JPYCでの取引は、ブロックチェーン(分散型台帳)上にデータが記録されるため、改ざんが困難で透明性が高いという特徴があります。将来的には、この取引データがfreeeやマネーフォワードといったクラウド会計ソフトとAPI連携(※システム同士を繋ぐ仕組み)することで、入金消込や帳簿付けの多くが自動化されると期待されています。 - スピードアップ:
銀行振込は、銀行の営業時間に左右され、着金まで数時間から翌営業日かかることも珍しくありません。しかし、JPYCはインターネット上で直接やり取りするため、24時間365日、取引が即時に完了します。これにより、資金繰りの見通しが立てやすくなるだけでなく、顧客への返金対応なども迅速に行えます。
JPYCがコスト・効率・速度の面でメリットをもたらす可能性を解説しました。しかし、これらはまだ抽象的です。次章では、より具体的な業務シーンに落とし込んで見ていきましょう。
【具体例】経理の実務はどう変わる?
ここでは、特にメリットを享受しやすい2つの業務シーンを例に、JPYC導入前後の変化を見てみましょう。
- ケース1:ネットショップの返品返金
- 【導入前】 顧客から返品依頼があり、指定口座に銀行振込で返金。毎回振込手数料が発生し、経理担当者は振込作業と記帳に時間を取られる。
- 【導入後】 顧客のウォレット(電子財布)に、JPYCで即時に返金。手数料はほぼゼロになり、取引記録も自動で残るため、経理の手間が大幅に削減される。
- ケース2:日々の入金消込
- 【導入前】 複数の顧客からの売上入金を、銀行の取引明細と一件ずつ照合。同姓同名や振込名義の間違いがあると、確認に多大な時間がかかる。
- 【導入後】 JPYCでの支払いは、誰から誰への取引かがデータとして明確に残る。将来的には会計ソフトと連携し、売掛金の消込作業がほぼ自動で完了するようになる。
新しい決済手段、専門家と一緒に考えませんか?
JPYCのような新しい技術の導入は、経理を効率化する大きなチャンスです。しかし、税務上の扱いや会計ソフトとの連携など、専門的な判断が必要な場面も。私たち専門家が、あなたの会社に最適な導入プランを一緒に考えます。
まずは無料で相談してみる具体的な業務シーンでJPYCがどう役立つかを見てきました。しかし、どんな新しい技術にも限界はあります。最後に、導入前に必ず知っておくべき注意点を解説します。
導入前に知っておくべき注意点と限界
JPYCは大きな可能性を秘めていますが、現時点では「魔法の杖」ではありません。導入を検討する際には、以下の3つの限界点を冷静に認識しておく必要があります。
- 普及するかはまだ未知数:
2025年秋ごろから発行予定です。自社が導入しても、取引先や顧客が対応していなければ利用できません。 - 税務上の扱いは要確認:
JPYCは法的に「電子決済手段」と位置づけられましたが、法人税や消費税の計算において、具体的な会計処理や税務上の取り扱いについては、今後国税庁から詳細な指針が示されるのを待つ必要があります。自己判断での処理は危険です。 - システム連携の現状:
クラウド会計ソフトとの完全な自動連携は、まだ「期待される未来」の段階です。現時点ですぐに全ての経理が自動化されるわけではないことを理解しておく必要があります。
「JPYCって怪しい?」その疑問に、税理士が経理視点でお答えします。JPYCは国が認めた安全なデジタル円であり、中小企業の「コスト削減」「経理効率化」に貢献する可能性があります。ネットショップの返金手数料削減などの具体例から、その仕組みと注意点をわかりやすく解説しました。
よくある質問
Q1. JPYCは、SuicaやPayPayのような電子マネーと何が違うのですか?
A1. 最も大きな違いは、その基盤技術と相互運用性です。電子マネーは発行元の事業者が管理する閉じたシステム内で機能しますが、JPYCはブロックチェーンという開かれた技術を基盤にしているため、理論上は世界中の誰とでも、特定のサービスに縛られずに直接やり取りできるという特徴があります。
Q2. 結局のところ、本当に安全なのでしょうか?
A2. 法律と仕組みの上では、高い安全性が確保されています。国の法律で定められたルール(裏付け資産の保持、発行者の制限など)に従って運営されているため、発行者が勝手に価値を操作したり、無価値になったりするリスクは極めて低いです。ただし、ご自身のウォレットのパスワード管理など、利用者側のセキュリティ対策は別途必要になります。
Q3. いつから本格的に使えるようになりますか?
A3. 多くの店舗やサービスで広く決済手段として使えるようになるには、まだ時間がかかると予想されます。まずは特定の業界や企業間取引など、限定的な範囲から普及が進んでいくと考えられます。最新の情報は、発行元の公式サイトや金融関連のニュースで確認することをお勧めします。
Q4. JPYCの価値は、常に安定して「1 JPYC = 1円」なのでしょうか?
A4. 原則としてJPYCは1円と同じ価値で発行・償還されます。ただし暗号資産取引所など二次市場での売買では、需給の関係で1円からわずかに上下する可能性もあります。これはドル建てステーブルコイン(USDCやUSDT)でも同じで、市場では一時的に乖離が起きることがありますが、裏付け資産があるため最終的には本来の価値に戻る仕組みになっています。
この記事がカバーしない範囲
本記事では、JPYCの会計上の概要を解説しており、個別の税務申告における具体的な仕訳や計算方法、またはJPYCを投資対象として評価するものではありません。税務判断や投資判断は、必ず専門家にご相談ください。
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本記事で解説した内容は、あくまで一般的な情報です。新しい技術の導入や税務に関する判断は、必ず専門家にご相談ください。当事務所では、クラウド会計の導入支援から、新しい決済手段に関するご相談まで、企業のDX(デジotransformation)をサポートしております。まずはお気軽にご相談ください。
専門家に無料で相談する投稿者プロフィール
- 税理士 (名古屋税理士会 税理士番号:113665号), 行政書士 (愛知県行政書士会:11191178号), 宅地建物取引士(宅地建物取引士愛知:063293号), AFP (日本FP協会)
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「 税理士業はサービス業 」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。
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