【税理士監修】事業用ポイントの課税は3パターンでOK!法人の会計処理と仕訳例を解説
お役立ち情報これまで名古屋で数多くの企業の経営DX(デジタルトランスフォーメーション)を支援してきた「でらくらうど」を運営する税理士の佐治英樹が解説します。「事業用のポイントって、これって売上?」「経費で貯めて個人的に使ってしまったらどうなる?」といった、多くの経営者や経理担当者が抱える会計処理の不安。この記事では、そんな事業用ポイントの悩みを完全に解消するため、以下の点を網羅的に解説していきます。
- ポイント課税の揺るぎない基本原則
- 実務で使う3つの課税パターン
- レシートの表示で決まる!正しい会計処理方法
- 税務調査で慌てないための注意点
目次
はじめに:事業用ポイントの扱いは「個人のポイ活」と全く違う
個人が日常の買い物で貯めるポイントは、基本的に「値引き」と同じ扱いのため、税金はかかりません。しかし、事業活動を通じて得たポイントは、個人のポイ活とは全くの別物です。なぜなら、それらは事業に付随して得られた「経済的な利益」と見なされる可能性があるからです。
この記事の結論を先にお伝えします。事業用ポイントの会計処理は、レシートや請求書の表示形式によって「①値引きとして処理する」か「②総額を計上し、ポイント利用分を雑収入として処理する」かが決まります。どちらの処理をすべきか、この記事を最後まで読めば、自信を持って判断できるようになります。
なぜ事業用ポイントだと話が複雑になるのか、全ての判断の土台となる根本的な理由から見ていきましょう。
1.【大原則】ポイントの課税有無は「対価性」で決まる
ポイントに税金がかかるかどうかを判断する根本的な基準は、そのポイントに「対価性(たいかせい)」があるかどうかです。対価性とは、簡単に言えば「何かの見返りとして受け取ったものか?」ということです。
国税庁の見解でも、個人が買い物で得る通常のポイントは、あくまで「値引き」であり、何かを提供した見返りではないため、所得税はかからないとされています。しかし、事業用のクレジットカードで経費を支払って得たポイントは、事業活動という行為から生まれた利益と解釈できます。この考え方が、事業用ポイントの税務を理解する上での出発点となります。
この「対価性」という考え方を元に、事業で発生するポイントが具体的にどの課税パターンに分類されるのかを次章で整理します。これにより、あなたの会社のポイントがどれに当てはまるか一目瞭然になります。
2.【パターン別】事業用ポイントの課税区分はこの3つだけ覚えればOK
事業で発生するポイントは、その取得経緯によって以下の3つのいずれかに分類されます。自社のケースがどれに該当するか確認してみてください。
パターン | 該当ケースの例 | 考え方と税務上の扱い |
---|---|---|
1. 所得税の課税なし(通常ポイント) | ・事務用品の購入で付与された ・出張時の航空券購入で貯まったマイル |
実質的な商品の値引きと同じと見なします。所得税の課税対象にはなりません。(消費税の計算は後述) |
2. 事業所得(雑収入) | ・モニター参加やレビュー投稿の謝礼 ・アフィリエイト報酬として得たポイント |
事業活動の一環として得た収入として扱います。これは役務提供の対価であり、明確に売上(雑収入)として計上する必要があります。 |
3. 一時所得 or 事業所得 | ・事業者向けキャンペーンで当選 ・取引開始記念で付与された高額ポイント |
臨時・偶発的に得た収入です。ただし、事業に直接関連して得たものは事業所得となり、それ以外が一時所得です。法人の場合は、法人税法に所得区分がないため、すべて事業の利益(雑収入/益金)となります。 |
これで頭の中が整理できたはずです。では、いよいよ最も重要な「これをどうやって帳簿につけるのか」という会計処理と、具体的な仕訳例を見ていきましょう。
3.【実践編】レシートの表示で決まる!ポイント利用時の正しい会計処理
ポイントを利用した際の会計処理は、会計方針として自由に選べるわけではなく、レシートや領収書にどう記載されているかによって決まります。これは消費税の計算(仕入税額控除)に直結するため、非常に重要です。
ポイント獲得時には、原則として仕訳は不要です。会計処理が発生するのは、ポイントを「使用した時」です。ここでは一般的な税込経理を前提に解説します。
ケーススタディ1:個人事業主の場合
【状況】
税込11,000円の事務用品(消耗品)を購入する際に、2,000ポイントを利用した。
- パターンA:レシートに「ポイント値引 2,000円」と記載 → 値引処理
- 支払額: 9,000円(11,000円 – 2,000円)
- 仕訳例:
(借方)消耗品費 9,000 / (貸方)現金 9,000
- ポイント: 値引後の支払額9,000円がそのまま費用(課税仕入れの対価)となります。
- パターンB:レシートに「ポイント利用 2,000円」と記載 → 両建処理
- 支払額: 9,000円(ポイント2,000円を充当)
- 仕訳例:
(借方)消耗品費 11,000 / (貸方)現金 9,000 , (貸方)雑収入(消費税不課税) 2,000
- ポイント: 総額の11,000円を費用計上し、ポイント利用分は雑収入(消費税不課税)として処理します。
ケーススタディ2:法人の場合(従業員の立替精算)
【状況】
従業員が税込55,000円の出張費を立て替え、その際に会社のポイントを5,000ポイント利用した。会社が従業員へ精算する金額は50,000円です。
- パターンA:レシートに「ポイント値引 5,000円」と記載 → 値引処理
- 仕訳例:
(借方)旅費交通費 50,000 / (貸方)未払金 50,000
- 精算時:
(借方)未払金 50,000 / (貸方)普通預金 50,000
- ポイント: 従業員が実際に支払った50,000円を費用として計上します。
- 仕訳例:
- パターンB:レシートに「ポイント利用 5,000円」と記載 → 両建処理
- 仕訳例:
(借方)旅費交通費 55,000 / (貸方)未払金 50,000 , (貸方)雑収入(消費税不課税) 5,000
- 精算時:
(借方)未払金 50,000 / (貸方)普通預金 50,000
- ポイント: 総額の55,000円を費用計上し、ポイント利用分は雑収入(消費税不課税)として処理します。
- 仕訳例:
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これで日々の仕訳は完璧です。しかし、実務では「社長がポイントを飲み会で使ってしまった…」など、もう少し悩ましいケースも出てきます。次章では、そうした「よくある質問」に先回りして回答します。
4.【要注意】経理担当者が知っておくべき実務ポイント3選
Q1. 社長や従業員が会社のポイントを私的利用したら?
A. 厳密には「給与」または「役員貸付金」として処理が必要です。
会社の経費活動によって得られたポイントは、会社に帰属する経済的利益です。これを従業員が私的に利用した場合、会社から従業員へ利益が供与されたと見なされ、「給与」として課税対象になります。役員の場合は「役員賞与」や「役員貸付金」となり、法人税法上の問題に発展する可能性があります。トラブルを防ぐためにも、「事業用ポイントの私的利用は禁止」といった明確な社内ルールを設けることが最も重要です。
Q2. ポイントの有効期限が切れたらどうする?
A. 原則、獲得時に資産計上していないため仕訳不要です。
もし貴社の方針でポイントを獲得時に資産として認識していた特殊なケースの場合は、失効時に雑損失などで費用化する処理が必要です。しかし、ほとんどの会社ではこのケースに該当しません。
Q3. ポイント利用時の消費税の扱いは?
A. レシートの表示によって変わるため、注意が必要です。
前述の通り、「ポイント値引」と表示されていれば値引き後の金額が課税仕入れの対象となり、「ポイント利用」と表示されていれば総額が課税仕入れの対象となります。このルールはインボイス制度が導入された後も変わりありません。受け取ったレシートやインボイスの記載を正しく確認し、仕入税額控除の金額を誤らないようにしましょう。
これで事業用ポイントに関する実務上の疑問は、ほぼ解消できたはずです。最後に、この記事でお伝えした最も重要なポイントをまとめます。
まとめ:ポイント管理も経理DXの第一歩
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この記事では、現在の税法上の「ポイント=値引き」というルールを前提に解説しました。しかし、近年SMBCグループが進める「Vポイント経済圏」の動きは、この前提そのものを揺るがし始めています。
ポイントが「資産」に変わる未来と、それが税制に与える影響について、より深く考察したこちらの記事もぜひご覧ください。
- ポイント会計は「使用時」に行うのが原則で、獲得時の仕訳は不要。
- 処理方法はレシートの表示に従う。「ポイント値引」なら値引処理、「ポイント利用」なら両建処理(雑収入計上)。
- 「私的利用のルール化」と「消費税の正しい扱い」を徹底することが、将来の税務リスクを回避する鍵。
ポイントの経理処理を明確に定めることは、単なる節税や税務調査対策に留まりません。それは、どんぶり勘定から脱却し、自社の資産や利益を正確に把握する「経理DX」の重要な第一歩です。経理をスマートにすることで、より正確な経営判断が可能になり、事業の成長を後押しします。
事業用ポイントの会計処理は「使用時」に行い、レシートの表示で決まります。「ポイント値引」記載なら値引処理、「ポイント利用」記載なら総額を費用計上し、利用分を雑収入(消費税不課税)とします。私的利用は給与課税のリスクがあるため、社内ルールの明確化が税務調査で慌てないための鍵です。
そもそも事業用ポイントは現金に換金しても良いのですか?
多くのポイントプログラムの規約で、事業用アカウントでのポイントの現金化は制限または禁止されている場合があります。まずはお使いのカード会社やポイントサービスの利用規約をご確認ください。もし換金が可能な場合、その現金は「雑収入」として会計処理するのが一般的です。
海外のサイトで得たポイントも同じように処理するのですか?
はい、基本的には同じ考え方で処理します。ただし、外貨建ての取引とポイントが絡む場合、どの時点の為替レートを適用するかなど、論点が複雑になる可能性があります。高額な取引の場合は、事前に税理士へご相談いただくことをお勧めします。
ポイントを従業員へのインセンティブとして付与するのはアリですか?
可能です。その場合、付与したポイントは従業員への「給与」として扱われ、源泉徴収の対象となります。会社側では「給与手当」などの費用として計上します。福利厚生費として認められるケースは限定的なので注意が必要です。
投稿者プロフィール

- 税理士 (名古屋税理士会 税理士番号:113665号), 行政書士 (愛知県行政書士会:11191178号), 宅地建物取引士(宅地建物取引士愛知:063293号), AFP (日本FP協会)
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「 税理士業はサービス業 」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。