インボイス後に迷ったら|原則・簡易・2割特例の有利不利を可視化|消費税シミュレーター【税理士監修】
お役立ち情報税理士の佐治英樹が監修。インボイス制度の開始後、「原則課税と簡易課税、結局どちらが有利なのだろう?」と悩む事業者の方が増えています。本記事では、お手元の数値を入力するだけで3つの方式の有利不利を比較できるシミュレーターを提供し、判断の道筋を示します。
この記事では、以下の順で解説を進めます。
- なぜ消費税の方式選びは複雑なのか
- シミュレーターの使い方とPDF保存の方法
- 計算結果の読み解き方と損益分岐の考え方
- 制度を利用する上での制約や注意点
- 次に行うべきアクション
まずは判断が難しくなった背景を整理し、シミュレーターでご自身の状況を客観的な数字で把握していきましょう。
目次
迷いの背景:インボイス制度後の消費税方式
インボイス制度が始まったことで、多くの事業者が消費税の納税方式の選択に改めて向き合うことになりました。特に、これまで消費税を納めていなかった方(免税事業者)や、年間の課税売上が5,000万円以下の方は、どの方式を選ぶべきか判断が複雑になっています。
悩みの原因は、主に以下の要素が絡み合っているためです。
- 売上規模や業種によって有利な方式が変わる
- 取引先がインボイスに対応しているかで、納税額が変わる場合がある(原則課税)
- 一度選ぶと原則2年間は他の方式に変えられない(簡易課税)
- 期間限定の「2割特例」というおトクな制度があるが、いつまで使えるのか、終わった後のことも考える必要がある
これらの条件をすべて頭の中で整理し、最適な選択をすることは容易ではありません。
この章では、消費税の方式選択が複雑化した背景を解説しました。次章では、この悩みを解決するため、具体的な数値を入力して有利不利を可視化するシミュレーターの使い方を解説します。
無料シミュレーターの使い方(入力→計算→PDF保存)
以下のシミュレーターに、貴社の状況に近い数値を入力し、「計算する」ボタンを押してください。もし正確な数字がわからなくても大丈夫。まずは大まかな金額で構いませんので、全体像をつかんでみましょう。前期の決算書や確定申告書、日々の会計データなどがお手元にあれば、より現実に近い結果がわかります。
各項目の入力ガイド:「これって何?」を解消します
入力に迷ったら、ここを読んでみてください。専門用語を身近な言葉で解説します。
- ① 年間の売上・② 年間の仕入/経費
- 前期の決算書や確定申告書の数値を参考に入力します。税込/税抜はどちらかで統一してください。例えば、売上を税込で入れたら、仕入・経費も税込で入力します。
- ③ インボイスをもらえそうな割合(%)
- ここが原則課税の納税額を決める重要なポイントです。仕入や経費の支払先のうち、インボイス(適格請求書)を発行してくれる相手がどれくらいいるかの割合を金額ベースで考えます。
- どう考えればいい?:例えば、年間の経費が100万円で、そのうち20万円を支払っている外注先のフリーランスがインボイス未登録の場合、インボイスをもらえない割合は20%。つまり「もらえる割合」は80%になります。
- もし分からなければ?:ひとまず「80」や「90」と入れて試算してみましょう。取引先に大企業が多いなら高めに、個人事業主が多いなら少し低めに設定するのが目安です。
- ④ 消費税がかかる売上の割合(%)
- ほとんどの事業では「100」のままでOKです。これは、売上全体のうち、消費税が課税されるものがどれくらいの割合を占めるか、という数字です。
- どんな時に100%じゃなくなる?:例えば、アパート経営による「住宅家賃収入」や、土地の売却、社会保険診療報酬など、消費税がかからない(非課税)売上が事業に含まれる場合に、この割合を調整します。
- もし分からなければ?:「100」のままで計算して、もし非課税の売上が多い場合は税理士に相談する、という流れで大丈夫です。
これらの数値を入力することで、シミュレーターはあなたの状況に合わせた納税額を3つの方式で計算します。
詳細設定(必要な場合のみ開く)
本シミュレーションは概算であり、届出や特例適用の要件を完全に判定するものではありません。最終的な判断は税理士などの専門家にご相談ください。
この章では、シミュレーターの具体的な使い方と、入力に迷ったときの考え方を説明しました。結果が出たら、次章でその数字が持つ意味と、なぜその方式が有利になるのかを読み解いていきましょう。
結果の読み解き方:数字の意味と損益分岐
シミュレーション結果から、どの課税方式が自社にとって有利な選択肢となり得るかが見えてきます。それぞれの方式が有利になる代表的なケースは以下の通りです。
- 原則課税が有利になるケース
- 解説: 支払った消費税額を正確に計算して差し引くため、仕入や経費の割合が大きい業種(例:小売業、飲食業、製造業)で有利になりやすいです。
- 特に有利な状況: 大規模な設備投資を予定している年。支払う消費税額が売上にかかる消費税額を上回り、消費税の還付を受けられる可能性があります。
- 簡易課税が有利になるケース
- 解説: 売上から「みなし仕入率(みなししいれりつ)」という業種ごとの概算率で仕入税額を計算します。そのため、付加価値が高く、実際の経費率がみなし仕入率より低い業種(例:ITサービス業、コンサルタント業などの士業)で有利になりやすいです。
- 損益分岐のヒント: シミュレーターに表示される「実効控除率」が、自社の業種の「みなし仕入率」を下回っていれば、簡易課税が有利だと判断できます。
- 2割特例が有利になるケース
- 解説: 免税事業者からインボイス発行事業者になった方向けの、期間限定の負担軽減措置です。納税額を売上税額の2割に抑えられるため、多くの場合で最も納税額が少なくなります。
- 注意点: ただし、これは期間限定の措置です。期限が終了した後に原則課税と簡易課税のどちらを選択するのか、長期的な視点で検討しておくことが重要になります。
この章では、計算結果の数字が持つ意味を解説しました。しかし、各制度を利用するには守るべきルールがあります。次章で、誤った解釈を防ぐための前提や制約を確認しましょう。
制度上の前提・制約・場合分け(誤用を防ぐために)
このシミュレーターはあくまで概算であり、実際の適用には様々なルールが存在します。特に以下の点は必ず押さえておきましょう。
- 前提条件
- シミュレーターへの入力は、税込または税抜で必ず統一してください。混在していると正確な比較ができません。
- インボイス控除可能割合や課税売上割合は、あくまで見込みの数値です。
- 制度上の制約
- 簡易課税: 適用したい課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。また、一度選択すると原則として2年間は継続しなければなりません。
- 2割特例: 適用できるのは、2026年9月30日を含む課税期間までという期限があります。また、免税事業者がインボイス登録をした場合などに限られます。
- 原則課税: 仕入税額控除を受けるには、インボイスの保存が必須です。また、非課税売上がある場合は、仕入税額を按分(あんぶん)計算する必要があります。
制度ごとのリスクや制約を理解することは、適切な意思決定に不可欠です。これを踏まえ、最終章では次に行うべき具体的なアクションを整理します。
次のアクション:届出・期限・相談の準備
シミュレーション結果と制度の注意点を踏まえ、次に行うべきアクションを明確にしましょう。
- 結果をPDFで保存する
まずはシミュレーターの結果をPDFで保存し、いつでも見返せるようにしておきます。これが今後の検討の土台となります。 - 届出の要否と期限を確認する
もし簡易課税を選択する可能性があるなら、自社の決算期を確認し、届出書の提出期限がいつになるかを必ず確認してください。期限を過ぎると、その課税期間では適用できなくなります。 - 専門家への相談を準備する
保存したPDFをもとに、顧問税理士などの専門家へ相談しましょう。シミュレーション結果があることで、「自社の場合はどうか」という具体的な相談が可能になり、より精度の高いアドバイスが期待できます。
PDF保存した結果をそのまま相談に活用できます。届出や制度対応で不安な方は、お問い合わせください。でらくらうどでは、届出支援や記帳代行も承っております。
インボイス後に原則課税・簡易課税・2割特例で迷う方向けに、税理士監修の無料シミュレーターを提供。自社の数値を入力し、有利不利を可視化。結果はPDF保存でき、専門家への相談資料にも活用できます。
よくあるご質問
シミュレーターへの入力は、税込と税抜が混在していても大丈夫ですか?
正確な比較のため、必ずどちらかに統一して入力してください。会計ソフトの期末残高などを参考にするとスムーズです。
仕入先にインボイス未対応の事業者が多い場合、控除率はどう考えれば良いですか?
例えば、仕入全体の2割が免税事業者からのものであれば、「インボイス控除可能割合」を80%に設定するなど、実態に近い数字で試算してみてください。この割合が変わると、原則課税の納税額が大きく変動することがわかります。
設備投資を予定している年だけ、有利不利は変わりますか?
はい、変わる可能性が高いです。高額な設備投資を行う年は、原則課税を選択することで消費税の還付を受けられる場合があります。シミュレーターで大きな仕入額を入れて試算し、詳細は税理士にご相談ください。
簡易課税の届出はいつまでに出せばよいですか?
適用を受けたい課税期間の開始の日の前日までです。例えば、12月決算法人が来年から適用したい場合は、今年の12月31日までに提出する必要があります。一度選択すると2年間は変更できないため、慎重な判断が求められます。
シミュレーション結果をもとに専門家へ相談しませんか?
保存したPDFの結果をもとに、具体的な届出や会計処理について相談しませんか。でらくらうどでは、貴社の状況に合わせた最適な選択をサポートします。まずはお気軽にお問い合わせください。
専門家に無料で相談する本シミュレーターおよび記事内容に関するご注意
本シミュレーションは、入力された数値に基づく概算です。実際の納税額は、個別の取引内容や適用される経過措置、地方消費税の計算などにより変動する可能性があります。また、制度の適用要件(簡易課税制度を選択できる事業者の基準期間における課税売上高が5,000万円以下であることなど)の判定を網羅するものではありません。最終的な税務判断は、必ず顧問税理士にご相談いただくか、管轄の税務署にご確認ください。
投稿者プロフィール

- 税理士 (名古屋税理士会 税理士番号:113665号), 行政書士 (愛知県行政書士会:11191178号), 宅地建物取引士(宅地建物取引士愛知:063293号), AFP (日本FP協会)
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「 税理士業はサービス業 」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。