自販機跡地の「充レン」は誰が儲かる?地下鉄の場所代と運営会社の採算を考えてみた

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地下鉄駅の自動販売機跡地に設置された充レン端末
自販機跡地に設置された「充レン」の収益構造を、場所を貸す側と運営する側に分けて検証します。

自販機跡地の「充レン」は誰が儲かる?地下鉄の場所代と運営会社の採算を検証してみた

以前、自販機ビジネスの採算と、持ち主・中身・置き場所の変化を考えた記事で、「何を売るか」だけでなく「誰が運営し、どこに置くか」に分けて見る必要があると整理しました。

そんな折、地下鉄の駅で自販機が撤去され、その跡地に黒いモバイルバッテリー貸出端末——JUREN株式会社が運営する「充レン」が設置されているのをたまたま見かけました。

利用料は通常1回330円です。[1] 充レンその一方で、JURENは設置場所の使用料として、名古屋市交通局に毎月いくら支払っているのでしょうか。そして、利用者から得る売上に対して、JURENの手元にはどの程度の余地が残るのでしょうか。税理士の視点からこのビジネス構造が気になり、公開されている公募資料などをベースに交通局側の収入と、JUREN側の採算性を分析・試算してみました。

分析を進めると、場所を貸す側の収入は比較的明快に把握できる一方、JUREN側の採算は、単純な利用回数だけでは測れないことが分かりました。

目次

先に結論

名古屋市交通局がこの設置場所で受け取る使用料は、月1万3,000円以上の固定収入です。[2] 名古屋市交通局ただし、ここには電気使用料などが含まれるため、全額が交通局の利益になるわけではありません。

一方、運営するJURENがレンタル料だけでこの場所代を賄う場合、必要な利用は少なくとも1日約1.4件です。ただし、これは売上の全額を場所代に充てる計算であり、端末代や決済手数料などは一切考慮されていません。場所代を売上の25%以内に収める試算に置き換えると、必要な利用件数は1日約6件まで増えます。

実際の利用件数や原価構造は公表されていないため、この端末が黒字か赤字かを断定することはできません。何が分かって何が分からないのかは、記事の最後に整理します。

1.330円と「場所代」は、まったく別のお金

この事業には、二つの異なるお金の流れがあります。

一つは、利用者からJURENへ支払われるレンタル料金です。利用者はJURENからモバイルバッテリーを借り、その対価として通常1回330円(税込)を支払います。

もう一つは、JURENから名古屋市交通局へ支払われる月額使用料です。JURENは駅構内の設置場所や電源を使用する対価として、交通局に毎月一定額を支払います。以下では、この月額使用料を分かりやすく「場所代」と呼びます。

つまり、利用者が支払う330円がそのまま交通局に入るわけではありません。交通局と利用者の間に直接の金銭のやり取りはなく、JURENが両者の間に立っています。

利用者 → JUREN:モバイルバッテリーのレンタル料金

JUREN → 名古屋市交通局:駅構内の場所を使用するための月額使用料

会計の視点から見ると、交通局が受け取る場所代は、端末の利用回数に左右されない固定収入です。一方、JURENが利用者から受け取るレンタル料金は、利用件数によって増減する変動収入です。

今回の契約形態では、利用件数が少なくてもJURENは毎月の場所代を支払う必要があります。そのため、利用件数が伸びないリスクを直接負うのは、主にJUREN側です。

2.交通局側——月1万3,000円以上の固定収入

今回の設置は一般的な店舗賃貸ではなく、駅構内という行政財産を使うための「行政財産使用許可」という形式です。例えば、瑞穂区役所駅の公募資料では、2026年3月末までに自販機を撤去し、跡地にレンタルスタンド(サイネージ付き32スロット機)を設置する計画が示されていました。[2]

使用料は、交通局が設定した月1万3,000円を最低額として、事業者が500円単位で月額使用料を提示する仕組みです。[2]選定では提示金額が重視されるため、最低額である月1万3,000円を上回る提示になりやすい仕組みです。

ただし、実際にJURENがいくら提示したかは公表されておらず、選定結果に載っているのは駅名と事業者名のみです。[3] 名古屋市交通局したがって、公開情報から確認できるのは、交通局の収入が月1万3,000円以上、年間15万6,000円以上であるという点までです。

この金額がそのまま利益になるわけでもありません。最低提案額には端末の電気使用料等が含まれているためです。一方で、設置・撤去・清掃・保守・問い合わせ対応・バッテリー補填などは事業者の負担となります。[2]

交通局から見ると、金額自体は大きくないものの、利用件数に左右されず、運営実務の多くを事業者側に任せられる手堅い収入だと言えます。

3.JUREN側——1日何件で成り立つのか

実際の使用料も利用件数も公表されていないため、ここからは使用料が最低額の「月1万3,000円」だった場合のシミュレーションです。計算を単純化するため、1回の利用で税抜300円の売上が立つと仮定します(厳密な数値の扱いは記事末尾の補足を参照)。

この最低額の場所代1万3,000円をレンタル売上だけで埋めるなら、必要な件数は月約43.3件、30日換算で1日約1.4件です。実際の使用料がこれより高ければ、必要な件数もさらに増えます。

ただし、これは損益分岐点ではありません。売上の全額を場所代に回した場合の数字であり、決済手数料、端末代、バッテリー代、通信費、保守費、そしてJURENの利益には1円も残らないからです。

私が顧問先の損益計算書を見るときも、最初に確認するのは売上件数ではなく「固定費が売上の何%を占めているか」です。JURENにとって、この端末の場所代は、利用の有無にかかわらず毎月発生する固定費です。そこで、利用件数ごとに場所代の負担率がどう変わるか試算してみます。

表1:利用件数と場所代負担率の試算(月額使用料1万3,000円)
1日当たりの利用件数 月間レンタル売上(税抜) 売上に占める場所代の割合
3件 2万7,000円 約48%
6件 5万4,000円 約24%
10件 9万円 約14%

1日3件では、売上の約48%が場所代に消えます。残り約52%で端末費、通信費、保守費、人件費まで賄うのはかなり苦しそうです。1日6件なら約24%となり、ようやく他の費用に回す余地が見えてきます。

では、場所代は売上の何%までなら成り立つのでしょうか。JURENは原価を公表していないため、同業のChargeSPOT(運営:INFORICH)の開示データを参考にします。2025年第3四半期の資料によると、国内のChargeSPOT端末1台当たりの3か月間の平均レンタル売上は4万7,400円でした。設置先への支払いは合計1万1,400円です。合計額はレンタル売上の約24%に当たります。[4] INFORICH

これは全国の平均値であり、固定費と売上連動費を合算した他社データです。JURENの実績でもありませんが、「設置先への支払いを売上の25%程度まで」と仮定する際の参考材料にはなります。

この仮定で逆算すると、使用料が最低額の1万3,000円なら1日約6件、1万5,000円なら約7件、2万円なら約9件の利用が必要です。繰り返しますが、これは場所代を売上の25%以内に収めるための試算であり、JURENの損益分岐点そのものではありません。

4.返せる場所の多さが、1台の価値を変えます

名古屋市営地下鉄の路線図に、充レン設置11駅を黄色いアイコンで示したマップ
図1:名古屋市営地下鉄の充レン設置駅マップ(2026年7月7日時点)

充レンのようなモバイルバッテリー貸出端末の特徴は、借りた端末と同じ場所へ戻す必要がないことです。空きスロットがあれば、国内の別の充レンへ返却できます。[1]

今回確認したJURENの公式サイトと公表資料では、借りた場所とは異なる場所に返却された割合を確認できませんでした。一方、同業のChargeSPOTでは利用者の約73%が「借りた場所とは異なる場所」へ返却していると発表しています。[5] INFORICH同種のモバイルバッテリーレンタルサービスが、このような用途で使われていることがうかがえます。

では、名古屋の現状はどうでしょうか。名古屋市営地下鉄は全87駅です。[6] 名古屋市交通局そのうち、2026年7月7日時点の充レン設置駅は11駅(約13%)です。[7] 名古屋市交通局

表2:名古屋市営地下鉄の充レン設置駅(2026年7月7日時点)
路線 設置駅
東山線 中村公園
名城線 茶屋ヶ坂、新瑞橋
名港線 港区役所、六番町
鶴舞線 浄心、御器所
桜通線 久屋大通、瑞穂区役所、瑞穂運動場西、桜本町

配置には偏りがあります。御器所から新瑞橋、桜本町にかけては比較的まとまっており、借りた駅とは別の近隣駅で返却しやすい配置になっています。一方、主要ターミナルである名古屋、栄、金山、伏見、今池の駅構内には充レンがありません。充レンの公式設置場所を見ると、地下鉄外では近鉄名古屋駅やサンシャインサカエ、カラオケまねきねこなどにも設置されています。[1]

今回公募分の8駅[3]については、JURENが自由に候補駅を出したのではなく、交通局があらかじめ指定した10物件[2]への公募で選定されたという経緯があります。この経緯は配置が偏って見える背景の一つですが、全11駅の配置を今回の公募だけで説明できるわけではありません。

また、JURENの拡大手法を見ると、2026年5月公表時点の東急線(69駅・136台)[8] JURENや、2026年5月時点のヨドバシカメラ全23店舗[9] JUREN、2024年7月公表時点のカラオケまねきねこ計393店舗[10] JURENなど、鉄道会社や企業単位でまとめて設置を増やす傾向があります。一括交渉で拠点を増やせる反面、拡大の途中では設置が集中する地域と空白地域が生じます。名古屋で「どこでも返せる」状態を作れるかは、今後の主要駅や空白地域の開拓にかかっています。

5.分かっていること、分からないことの整理

この駅の採算を検証するには、少なくとも次の数字が必要です。

【公開情報から分かること】

  • 最低提案額は月1万3,000円
  • 通常料金は税込330円(税抜300円)
  • 保守・清掃・問い合わせ対応などはJUREN側の負担
  • 借りた場所とは別の充レンにも返却できる
  • 名古屋市営地下鉄の設置は11駅

【公開情報からは分からないこと】

  • JURENが実際に提示した月額使用料
  • 端末ごとの利用件数
  • 端末・バッテリーの調達コスト
  • 決済・通信・巡回・保守の実額
  • この端末から最終的に残る利益

交通局の募集要項では、事業者は各スタンドの月次利用者数を四半期ごとに報告することになっていますが、その実績は公開されていません。[2]

したがって、「この駅の充レンは単独で黒字」とも「赤字」とも断定できません。公開資料から言えるのは、最低額の場所代だけなら1日約1.4件で払えるが、費用構造を考えれば6件前後は欲しい——という試算上の関係までです。

なお、返却先が少ないことがそのまま赤字を意味するわけでもありません。借りた場所と同じ場所に返却する人や、緊急時にその場で充電する需要もあるためです。返せる場所の多さは、単独の端末の採算とは別に、サービス全体の使いやすさを左右する要素と言えます。

まとめ——場所を貸す側と、端末を置く側で見ている数字

同じ1台の機械でも、立場によって見え方は変わります。交通局にとっては利用数に左右されない「固定収入」。JURENにとっては、利用件数で変わる「変動収入」と毎月発生する「固定費」との綱引きです。利用の少なさというリスクを引き受けているのは、端末を置く側です。

無人端末を見るときは、「何を置いたか」だけでなく、「誰が場所代を受け取り、誰がリスクを引き受け、1日何件の利用があれば成り立つのか」という視点を持つと、街の風景からビジネスの仕組みが見えてきます。

よくある質問

Q. 利用者が払う330円は、そのまま名古屋市交通局の収入になりますか?

A. いいえ。330円は利用者がJURENへ支払うレンタル料金です。名古屋市交通局は、JURENから別途、駅構内の設置場所に対する月額使用料を受け取ります。

Q. 月1万3,000円の場所代を賄うには、1日何件の利用が必要ですか?

A. 1回当たり税抜300円、30日で計算すると約1.4件です。ただし、これは売上の全額を場所代に充てる計算であり、端末代や決済手数料などを含む損益分岐点ではありません。

Q. 1日約6件使われれば黒字になるのですか?

A. 断定できません。約6件は、最低使用料1万3,000円を売上の25%以内に収めるための試算です。実際の使用料、端末・バッテリー代、決済・通信・保守費などが非公表のため、黒字化に必要な件数は分かりません。

Q. 借りた駅とは別の場所に返せますか?

A. はい。空きスロットのある充レンスタンドであれば、借りた場所とは別のスタンドにも返却できます。返却先は、公式サイトや公式LINEの設置場所案内で確認できます。

Q. この駅の充レンが黒字か赤字か、公開資料から分かりますか?

A. 分かりません。公開資料で確認できるのは最低使用料や契約条件までです。実際の提示額、利用件数、原価や運営費が公表されていないため、この記事では黒字・赤字を断定せず、条件別の試算にとどめています。

補足——本文の計算について

本文では読みやすさを優先して計算を単純化しています。

使用料は公募の最低提案額(月1万3,000円)を使ったシミュレーションです。実際の金額は非公表です。

また、本文の「利用件数」は新たに料金が発生した利用数を指します。充レンにはLINE経由の「リチャージ特典」があり、最初に借りた日の翌日24時までは返却後に追加料金なしで借り直せます。そのため、端末からのバッテリー貸出回数と料金が発生した件数は一致しません。本文では「1回の利用=税抜300円の売上」として計算しています。

参考資料

参考資料は、本文で出典が最初に表示される順に並べています。設置数や店舗数は、各資料に明記された時点の値です。

投稿者プロフィール

佐治 英樹(さじ ひでき)
佐治 英樹(さじ ひでき)税理士 (名古屋税理士会 税理士番号:113665号), 行政書士 (愛知県行政書士会:11191178号), 宅地建物取引士(宅地建物取引士愛知:063293号), AFP (日本FP協会)
「 税理士業はサービス業 」 をモットーに、日々サービスの向上に精力的に取り組む。
趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。
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